第45話 ウォーターポンプ
某年某月某日
ここ数カ月好調に走り続けていたのに、今度はウォーターポンプから水が漏りだした。ロータスツインカムエンジンの一番の鬼門が、このウォーターポンプなのだ。
普通の自動車エンジンのウォーターポンプは、壊れたらそれ自体を取り外して交換できる構造になっているが、ロータスツインカムエンジンはフロントカバーと一体構造になっているため、シリンダーヘッドとオイルパンを外し、フロントカバーを外さないと交換ができないのだ。この前エンジンをオーバーホールした際、新品のウォーターポンプを買ってあったのに、以前から付いていたものをチェックして問題が見あたらなかったので、そのまま使ったのが運の尽きだ。またエンジンを下ろすのは大仕事だから、シャーシに積んだままの作業を試みることにする。ロータスツインカムは、元々オーバーヘッドバルブエンジンのシリンダーブロックに無理矢理ツインカムヘッドを載せたのだから、この程度の作業性の悪さが伴っても仕方がないと言ってしまってよいのだろうか。しかし、ウォーターポンプをフロントカバーの中に埋め込んだことによって、エンジンがコンパクトにまとまっているのは確かだ。
だから、このエンジンほど60年代のモータースポーツに貢献したエンジンはないのではないだろうか。
もしエランにフォードのプッシュロッドエンジンがそのまま使われていたりしたら、その魅力は半減してしまうし、8バルブでもツインカムエンジン、グラスファイバーボディー、4輪ディスクブレーキ、この三拍子揃った車はなかなかないのだ。
因みにロータスツインカムエンジンは本当はツインカムではなく、オイルポンプとディストリビューターを回すジャックシャフトにプッシュロッド用のカムシャフトがそのまま使われているから、正しくはトリプルカムエンジンなのである。
ウォーターポンプを回すファンベルトプーリーのハブは、ポンプのシャフトに圧入されている構造だから、この部分の入れ替えをまたN熔接にお願いした。
某年某月某日
新品のウォーターポンプがきれいに収まったフロントカバーがN熔接から戻ってくる。フロントカバーとそのバックプレートを組んで、シリンダーブロックに付けたところまではよかったが、車の下に潜ってオイルパンを取付けようとしたら、フレームのクロスメンバーが邪魔で、ガスケットを所定の位置に鋏み込めないことが約1時間の格闘の末判明した。オイルパンの前後に付いている厚いコルクのガスケットを、うまく固定することが出来ないのだ。こうなったらレンタルショップに走り、チェーンブロックを借りてきて、シリンダーブロックを下ろすしか打つ手がない。
それしか方法がないのが最初から分かっていれば、そうした方がズーっと効率が良かった。このところ作業が途中まで進んでから、振り出しに戻るようなことをしてばかりいるような気がする。こんなに大変な作業を完成した後に、パワーが上がったりピックアップが良くなったりすれば、多少の苦労もむくわれるのだが、ウォーターポンプが変わっても水が漏れなくなるだけというのは、本当に勺に触る。しかし、エンジンの積み込み作業も2度目ともなると、コツを心得てきてスムーズに運ぶようになるものだ。だから場数を踏んでいるプロのメカニックが、無駄のない作業ができるのは当然だろう。
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