第36話 均一教育とレーシングドライブ
某年某月某日
NSから、ユーノスロードスターの発売を記念して、雑誌編集部対抗ワンメークレースがマツダの主催で行なわれることになり、HA誌の代表でそのレースに出場することになったのだが、マツダが仕立てたレースカー30台が全て新車なので、谷田部のテストコースで全車一斉にナラシを徹夜で行なうイベントがあるから付き合ってくれと、電話がかかってきて、夕方からエランで出かけることになった。
テストコースのパドックに行くと、色とりどりのユーノスロードスターにロールバーとバケットシートが付いたレースカーがズラリと並んでいる。エランで紛れ込んでしまおうかと思ったが、並べてみると違いが歴然としていてそれは無理のようだった。
早いもの順で好きな車を選び、ナラシからレースまで使わせてもらえるそうだ。プレスの連中は、こういった美味しい話が所々に落ちているから、羨ましいかぎりだ。NSが選んだのは白いボディーの車で、レース当日に行なわれるカッティングシートによるボディーデコレーションのコンテストのベースには、白がいいだろうとの判断からだった。それ以外に車の優劣を判断する材料としては、装着されたB社とY社のタイヤの違いはあったが、どちらもさほど変わりがないだろうと言いながら、結局B社のタイヤを履いた白い車に決まった。参加者が三々五々集まってきて、全員車を選び終わったころ、ナラシについて主催者から説明が始まった。それは、2時間のセクションに区切り、そのセッションごとにエンジンの回転数が指定され、朝までにナラシを終えるスケジュールだった。そして僕は、途中の5速3000?4000回転を維持する2時間のセッションを任されることになった。
最初のセッションは、NSが乗り込んでトランスミッションとブレーキパッドのナラシである。夜の夜中に30台ものオモチャのような車が、テストコースの周回路をさほど早くないスピードでグルグル回っているのは、何ともコッケイな景色である。そして僕の順番が回ってきたのは夜中の1時過ぎで、コースに出ると、周囲の車も指示を守っているから、全員が同じスピードで走り続けている。これは眠いし、コースは単調でイライラしていたら、疑問がふつふつと沸いてきた。今自分がやっていることは、まるで車に対する現代の日本の学校教育のようなもので、これを守れば全車均一な性能を発揮するようになるだろうが、やはりレースの目的は勝つことであるから、皆と同じことをしていたのでは、絶対に勝てない事に気がついた。そこで僕は日本車の機械工作技術の優秀性を信頼して、指定より低いギアで回転を上げて走ることにした。5速のままエンジンをブン回すとスピードが出てしまって、指定を守っていないのがバレてしまうからだ。さすが日本車は、極端なナラシに音をあげることもなく、空がしらじらと開けてくるころ全セッションが終了した。
某年某月某日(ナラシを終えた次の日曜日)
朝からシトシト雨が降っているが、今日がプレス対抗ユーノスロードスターレースの当日で、富士スピードウェーのフレッシュマンレースと同日開催である。NSが用意してきたカッティングシートでシェルビーコブラよろしく太いラインを2本入れたが、白のボディーに蛍光グリーンのラインでは、残念ながら精悍に見えるものではない。
午前中小雨の降る中行なわれた予選では、各車、計時用の発信装置を積んでいるので、スタート/フィニッシュラインを通過する度、上位のタイムとポジションがオンタイムで電光掲示版にディスプレイされる。チェッカーフラッグが振られた最終周に、NSのカーナンバーがリストの一番上に上がって、見事ポールポジションのタイムを出すことができたようだ。これは、彼の腕の良かったのか、僕のインチキナラシが効を奏したのか、その結果は決勝を待たなくては分からないだろう。だから、決勝か待ちどうしいのだが、ユーノスのレースは全レース終了後に行なわれるため、それまでの間、車にいじるところもなく、何もすることがない。コースではひっきりなしにいろいろなカテゴリーのレースが行なわれているが、フレッシュマンレースは、町中の野球場で見る草野球と同じで、自分が係わっていないかぎり、興奮するものではない。
この予選から決勝までの数時間のインターバルの間、レースカーが並べれた駐車場では、D誌から出場するMS氏が、一人車に乗り込んでエンジンをブリッピングさせていた。彼は、カートレースの頃からの顔見知りで、以前MR誌の取材を依頼してきたのも彼だった。そして、彼は、セカンドポジションからのスタートである。
天気のせいか薄暗くなりかけたころ、やっと順番が回ってきた。
同じ形をしたカラフルな車が一斉にスタートするのはなかなか壮観ではあるが、基本的には全車同じ性能なはずなのに、たった一周トップからテールエンドまで大きな差が付いてしまうのは、文部省が努力している均一教育があまり意味をなさない証拠ではないだろうか。いやレーシングドライブは、もっと崇高なものに違いないのだ。ポールポジションからスタートしたはずのNSは、どうしたわけか中段に埋もれている。しょうがないなあと思いながら見ていると、少しづつ順位をあげてきた。トップをひた走るのは、やはりインターバルの間ブリッピングを続けていたMS氏だ。その彼もどこかでブレーキングをミスしたのか、フロントタイヤにフラットスポットができてすさまじい音をたてている。富士スピードウェーのピットからは、ストレートとヘヤピンカーブしか見えないから、その他のコーナーで何が起こっているのか全く分からないが、NSは順位を上げたり下げたり一人でレースを楽しんだようだ。
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