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第30話 部品の寿命

某年某月某日

夜に赤坂辺りを走っていたら、突然ボコっという音と共に片方のヘッドライトが閉じてしまった。車を路肩に止めて原因を調べたら、リトラクタブルライトを開閉するロッドのプラスチック製のロッドエンドにクラックが入って、ボールが抜け出てしまっていた。ドライバーの生命に直接関係ない部分に、金属製ではなく軽量なプラスチックを使うところは、やはりロータスらしさの現われだが、ここで感心していても始まらない。

ボールをもう一度押し込んでみたが、もうガタガタになっていてすぐに抜けてしまう。プラスチックの老化現象だから仕方がないが、もう片方がまだ壊れていないなということは、この部品に欠陥があったのではないかと疑ってみたくなる。

エランは、ただでも小さくて目立たないのに片目はもっと危険なので、何とか修理を試みるが、こんな単純な部品はかえって直しようがない。いつも持参しているはずのガムテープも、なぜか今日はトランクに入っていない。「片目で帰るか!」と諦めかけたら、またありがたいことにコンビニエンスストアーがあるではないか。ガムテープはどこのコンビニエンスストアーにも置いてある商品だ。さすがにボディーと同色のものはなかったが、ヘッドライトを固定するのに充分な粘着力のテープが手に入った。リトラクタブルライトのポッドをボディーにテープで固定して、また走りだす。しばらく走っていたら、ライトがまたボコっと音をたてて閉じてしまった。テープであんなに固定したのにどうしてだろうと思ったら、今度はさっきと反対側だった。原因は全く同じである。こんな単純な工業製品が、1時間の時差もなくその寿命を全うすることがあるのだろうか?いくら偶然にしろ、時限装置が付いているような正確さには驚かされた。両方の目に二重まぶたにするためのテープを張ったようなエランは、何ともまぬけに見えるのだった。

エランのリトラクタブルヘッドライトは、エンジンのバキュームを使って開閉するシステムになっている。そのバキュームを溜めておくタンクにフレームのクロスメンバーが使われている点は、チャップマンお得意の一つの部品に二つ以上の働きをさせようとするフィロソフィーの現われである。

因みにUS仕様のエランはアメリカの安全基準に従って、リトラクタブルヘッドライトを開閉させるバキュームが抜けてしまってもライトが開くようになっている。(今回のように部品自体が壊れてしまった場合はその限りではないが。)本国使用がバキュームでライトを吸い上げるのに対して、US仕様は、開けようとするスプリングに反発して吸い下げているのだ。だからエンジンを止めて駐車しておくと、ゆっくりバキュームが抜けて少しづつ目が開いてしまうのである。これを見ていると、ゆっくりと目を覚ましていく生き物のようで、なかなかキュートでもあり不気味でもある。

翌日東急ハンズに行ってロッド材と金属製のロッドエンドを買って、リトラクタブルのロッドを作り直す。今度は重量が少し重くなった分、半永久的に壊れないことは確実だ。

 

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