第26話 ネバーギブアップ
某年某月某日
M氏の家で開かれるパーティーに向かうため駒沢通りを走っていたら、突然エンジンが吹けなくなり止ってしまった。その場所が偶然ガソリンスタンドの前だったので、事情を話してスタンドの中に止めさせてもらうことができた。これは燃料が来ていないのだろうと、燃料ポンプをチェックすると、動いていることは動いているが、何となく力が抜けたような音がしている。
そもそもこの電磁ポンプは、オリジナルの機械式ポンプに替えて3カ月程前に取付けた、立川町の解体屋街で買ってきた中古パーツなのだ。これが、大枚はたいた新品だったりすると、誰かにこのトラブルの責任を押しつけたくなるが、「ケチをすると禄なことが起こらない。」と言う絵にかいたような例なので、自分はこのトラブルを妙に納得してしまった。因みにポンプを電磁式に取り替えた理由は、オリジナルの機械式ポンプが壊れてガソリンを送らなくなったからではなく、ガラスのチャンバーがついているその外見がヒーターバルブ同様「いかにも古いイギリス車のパーツ」然としていて嫌いだったのと、そのガラスのチャンバーと本体の接続部分がらガソリンがにじみ出るようになっていたからだ。
壊れたことに納得していても機械は自分で直ってくれないから、いつものように取りあえず外してバラしてみることにする。ここでお気づきいただきたいのが、工具のことである。エランで移動するには、ある程度の路上修理ができる工具は必須アイテムである。僕の場合は、アメリカ軍放出の機関銃の弾丸ケース(10cmX25cmX20cmぐらいの大きさ)に入るだけの、レンチ各種、ソケットレンチ、プライヤー、ドライバーなどの詰め合わせを常備している。俗に言うロータスの必需品、ガムテープと針金だけでは不十分なのである。
ところで、ポンプをボディーから取り外してバラし始めてから、僕は今までその中を覗いたこともない事に気づいた。当初想像していた原因は、「まあなにかゴミでも詰まっているのだろう。」程度のことだった。ポンプの底の蓋をグルッと回すとロックが外れて、蓋が外れる。すると中からフィルターが出て来たが、そこにゴミらしい物は見当たらない。第一の予想は、外れてしまった。もっと奥に進んでいくと、中心にあるピストンが行ったり来たりする筒の入り口に付いているゴム製のOリングが、ベロッと筒からはみ出している。このOリングはどういう働きをするものかは分からないが、どうもこれが怪しい。そんなことをしていたら、さっきまで明るかったスタンドも閉店時間になってしまい、照明が消されてしまった。もちろん懐中電灯も、エランの重要な常備品の一つである。
さて、このふやけて伸びてしまったOリングをなんとかしないと、ポンプは直りそうにない。でも、これにピッタリサイズのOリングを売っている店が、そこらにあるわけがない。半分途方に暮れて辺りを見回すと、通りの反対側は、光々と明るいコンビニエンスストアーがあるではないか。コンビニエンスストアーには、必ずといっていいほど瞬間接着剤がある。Oリングの余っている部分を切って、瞬間接着剤で繋ぎ合わせれば、ピッタリサイズのOリングが出来上がるはずである。それ以外に対処方法は考え付かないのだから、試さない手はない。道を渡って店に入ると、文房具のコーナーにちゃんと瞬間接着剤がぶら下がっている。コンビニエンスストアーとはよく言ったもので、こんな時にも便利に役立つとは思ってもいなかった。
ハサミで余っている部分を3ミリ程切り詰め瞬間接着剤で接着すると、ピッタリサイズのOリングが出来上がった。元の場所に戻してポンプを組み直す。これで駄目だったら、M氏の所に電話をして助けに来てもらおうとを考えを巡らせながら、燃料ホースを繋ぎ、電源のカプラーを差し込み、キーを捻ると、なんとポンプは勢い良くガソリンを送り始めた。これはまったく、ざまー見ろの心境である。
そしてガソリン臭い僕は、パーティーへ向かうのだった。
それから数カ月間、このポンプは何事もなかったように働き続けたが、Oリングは常にガソリンに漬かっているので瞬間接着剤の寿命も尽きたらしく、また同じトラブルが発生した。それは、自宅まであと200メートルの所で起こったから、そこから一人で車を押してゴールインさせた。ルマン24時間のゴールなら語り草になるかも知れないが、これは身から出たサビなので誰も褒めてくれやしない。
それでも懲りずに、今度は、もう少し程度の良い解体部品を買いに走るのだった。
お楽しみに。
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