第23話 オリジナル ホンダF1
某年某月某日
鈴鹿サーキットでクラシックカーフェスティバルというイベントが開催され、ホンダの1.5リッターF1が走るというので、これは見逃せないと駆け付けた。
このイベントはプログラムが三分割されていて、第一部がホンダ2輪レーサーのデモラン。第二部が第一回、第二回日本グランプリの出場車と同型車による模擬レースとパレード。
第三部が、林、松田、原田の日本3大カーコレクターの見せびらかし大会だったが、これがなかなか見ごたえがあった。お目当てのホンダF1が走ったのもこの第三部だった。
朝一番とても悲しいことが起こった。僕のエランのそっくりの白いS4クーペが、練習走行中に1コーナーから飛び出して、ボディーが裂け、フレームまで曲がってしまうほどのクラッシュをしてしまったのだ。この車はこの日のためにレストアをしたようで、どこをとってもけなしようがないほどビカビカだったのに、見るも無残な姿になってしまった。僕は他人事とは思えず、パドックに止められたそのエランの傍らでしばし茫然していたが、ピットの方でホンダF1のエンジンウォームアップが始まったら、無意識のうちにその音に引き寄せられてしまった。
第一部は、とにかく僕にとって、走っている姿を見るのも音を聞くのも初体験のホンダの2輪グランプリレーサーが、生で爆発音を出しながら走ってくれるのだから目が離せない。ここでおもしろかったのは、ホンダがグランプリを戦っていた頃、まだ若かったエンジニアやメカニックだった人達が、当時のユニフォーム(白いツナギ)に着替えてホンダのマークが刺繍されたキャップを被り、嬉々としてレーサーを整備している姿だった。今は皆さん社内でそれなりのポジションを得ているのだろうけれど、クラス会を開いているような雰囲気が漂っていた。
田中健次朗、高橋国光、北野元、黒沢元治がメカニック達と肩を組んで記念撮影をしていたが、当時の黒い革ツナギを着ておわんヘルメットをった黒沢元治が350cc6気筒マシーンで走りだすと、ホンダが2輪グランプリを連戦連勝していたころのことに詳しくない僕までが魅了されてしまうのだから、本人はいったいどんな気分で走っているのか知りたくなった。
この後に本田宗一郎氏が若かりし頃レースへ参加していた、カーチスレーサーのレストアが完了して、本田氏自身がドライブしてコースを数周するパレードが行なわれた。彼は満面に笑みを浮かべてご機嫌のようだった。彼はこのレーサーでレースをしていた頃から大きな夢を持っていたのだろうが、自分の会社がこんなに大きくなり、サーキットまでも所有しF1を制覇することまでビジョンが組み上がっていたのだろうか?そんな、将来も語り継がれていくであろう立身出世のヒーローを生で見たのは、この時が最初で最後になってしまった。
その後の第二部は、スズライト、三菱コルト、コロナ、ヒルマン等々、トライアンフ、ポルシェなど懐かしの国産車と外車による日本グランプリ回顧パレードがあり、それぞれの車には、当時のドライバー本人が乗り込むところがミソだったのだが、端で見ていて、多くの参加者に恥じらいがあるように感じたのはいったいなぜだろう。当時のレースがあまりにプリミティブだったので、今となっては触れられたくない過去の秘め事にしておきたかったのだろうか?
お待ち兼ねの第三部は、日本国内にあるビンテージF1が全部集合したかのようで華やかある。ここで一つ驚くべき事実を発見してしまった。林コレクションから持ち込まれたナショナルカラーのBRGにイエローのラインが入った極く初期のロータス49に積まれたDFVに、なんとエランとまったく同じルーカスのスターターモーターが付いているのだ。DFVをクランキングできるのなら、ロータスツインカムなど軽いものだろう。やっぱり僕のエランがきっとどこかおかしいのだ。
お待ち兼ねのホンダ1.5リッターF1には、次の年からF1行きが決まっていた中嶋選手が乗り込み、コースを何周かして、ホンダミュージックのイントロだけを聞かせてくれた。
ホンダからプレゼントされた車を林コレクションに売ってしまって、ホンダを怒らせたというサーティースの名前が大きく書かれた3リッターF1は、「なぜ俺だけF1に行けなかった」と遺恨の生沢徹が、ペラペラに薄いレーシングスーツを着てレスレストンのヘルメットを被ってドライブした。さすがに彼はオシャレである。そんな彼がホンダF1をどんな気持ちでドライブしていたか、とても興味を持った。このイベントもここまでは格調高かったが、その後は、松田、林の両オーナーが、それぞれ戦前マセラーティやアルファロメオ、メルセデスのグランプリカーにとっかえひっかえ乗り込んでの、カーコレクションの競演になってしまった。もちろん出て来る車はそれぞれ素晴らしいのだけれども、ティレルの6輪F1にオーナーの原田氏の息子が乗って、もうちょっとのところでガードレールにクラッシュしそうになった頃には、そろそろゲップが出はじめていた。これは絶対嫉妬心からではないのだろうと思うのだが、、、、。
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