第22話 ああルーカス
某年某月某日
例の赤いボロのS2を売っていた環八のロータス屋を冷やかしに行って、家に帰ろうと店の前に止めておいたエランのキーを捻ると、スターターモーターがウンともスンとも言ってくれない。バッテリーが上がりかけたときだって、ピニオンギアとリングギアがぶつかり合う音が聞こえてくるのに、今日はスターターモーターが全く反応していない。すると、電気器具が焼けた臭いが、センタートンネル辺りから漂ってくるではないか。都合良く一緒にいたNSに押してもらってエンジンをかけ、お店の人に気付かれないうちにその場を立ち去ることができた。しかし、これでスターターモーターが直ったわけではなく、原因を究明して、修理をしなければならないのだ。
NSの家まで行って車の下に潜りスターターモーターを外すと、電器製品が焼けてしまった時にでる特有の嫌なにおいがプンプンする。ボルトを2本緩めてバラしてみると、ブラシを押しているゼンマイのようなスプリングが溶けてしまっている。いったい原因はなんだったのだろうと二人で考えた結果、走っているときにスターターモーターがエンジンと一緒に回りっぱなしだったのではないかと推理した。そしてその現象は、スターターモーターに電気が流れ続けなければ起きないので、イグニッションスイッチを調べてみたら、案の定キーシリンダーとイグニッションスイッチの連結部分にガタがあった。スターターモーターがONになる位置からイグニッションがONになる位置までキーが戻っても、スイッチ自体はそのままの位置に止まったままになっていたわけだ。キーシリンダーとイグニッションスイッチの隙間をエポキシパテで埋め、遊びがないようにして、二度と同じことが起きないよう処置したところまではよかったが、いずれにせよこのスターターモーターは二度と回ってくれないのだ。
スターターモーターは、三軒茶屋にあるI電器に修理を依頼した。「こんなのもう使いものにならないよ。」と言われてしまうのではないかと恐る恐る持って行ったのだが、当たり前のように修理を受け付けてくれた。こういった修理屋さんは本当に有り難い。
帰り道はエンジンが止ったらそこでレース終了になってしまう現代のF1マシーン状態なので、スタートの際にはいつもよりクラッチのミートに神経を使ったが、エンストすることもなく無事家まで帰ることができた。
ところでこのスターターモーターも因縁のルーカス製だが、数えきれないほどの回数僕を落胆させてくれた。問題は、その機構とパワー不足である。まともな車のスターターモーターは、電気が流れるとソレノイドによって押し出されたピニオンギアがフライホイールの周りについたリングギアとかみ合ってから回りだす機構になっているわけだが、エランやミニなど古いイギリス車は違うのだ。始めにモーターが回りだし、その時に発生する慣性力によってピニオンギアが押し出され、回りながらリングギアと無理矢理噛み合う仕掛けだ。ピニオンギアとリングギアが噛み込んでしまうとリングギアが欠けてしまうこともある。エンジンはシリンダーのコンプレッションの関係で止まっている角度がなん箇所かに限られているから、その噛み込みが癖になってしまうのである。そしてスターターモーター自体のパワーも弱いので、冬の朝一番などは、必ずと言ってよいほどエンジンを回してくれない。悔しいのは、スターターモーターが正常に働いてクランキングさえしてくれれば、エンジンは一瞬のうちに目覚めることだ。
寒い時にはバッテリーの放電も弱し、オイルも固いから、エキストラのバッテリーを繋いでモーターのパワーを上げてやれば良いのだが、これではまるでレーシングカーになってしまう。
スタートに失敗してギア同士が噛み込んでしまったら、トランスミッションのギアを2速に入れて車を前後にゆすると、離れてくれる。このスターターの問題は僕のエランの持病なので色々改善策を試みたが、これといった解決策を見つけることができなかった。一度試したアイディアは、プラグに火が飛ばないようにしてスターターを回すと勢い良くクランキングするので、キースイッチとは別にイグニッションのスイッチを付けてプラグの火が飛ばないようにし、スターターを回してからイグニッションをONにしてみたが、その途端モーターのパワー不足でクランキングが止まってしまった。点火タイミングは、スペックに合わせてあるのだから、タイミングが早すぎてクランキングしきれないと言うこともないと思うのだが、、、、、、、。とにかく、いくらエンジンの調子が良くても、かかってくれないことにはどうしようもないのである。問題がない人のエランは、同じ種類のスターターモーターでも強くクランキングできるのだから、僕のモーター個体の問題なのだろうか?
結局その後、ルーカスファクトリーリビルトのスターターモーターを2個、リングギアを2枚も買わされたが、問題はまったく解決されていない。
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