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第21話 時代の狭間に生まれて

某年某月某日 湾岸道路を気持ち良く走っていたら、右前輪からザッザッザッザと音が出始めた。ハブベアリンがだめになったようだ。家に帰ってジャッキアップしてタイヤを外し、ブレーキキャリパーも取り外して、ディスクローターごとハブを抜くと、アウター側のローラーベアリングのローラーの表面が剥離して、細かい銀色のフレークがグリースに混じっている。

これは通常のベアリングのトラブルなので、特に驚くことではないが、エランに使われている部品は時々人を驚かせてくれる。なんとハブグリースが流れ出すのを防ぐシールが、フエルト製なのだ。そう、小学校の家庭科に時間に使うあのフエルトと同じ生地だ。僕はどんな車にもシリコンゴム製のシールが使われていると思っていたので、この直径5センチぐらいのフエルトの輪が出てきた時は、なにかの間違いかと思ってしまったほどだ。ドアを開けた所に付いているプラーク(US仕様の特徴の一つ)によると、この車が工場から出荷されたのは、あの大阪万博が開催されていた1970年の8月である。それなのに、このエランに使われている部品といったら旧態依然としていて、まるでイギリスが最も栄えた頃に過剰生産して不良在庫になった部品の在庫処分が行なわれているかのようである。特にルーカスは、部品の研究開発を50年代で辞めてしまったのではないかと思うことしきりである。本当かどうか定かではないが、イギリス人が生温いビールを好むのは、ルーカスの冷蔵庫のせいだと言われているほどで、良い評判を一度も聞いたことがない。以前、友人達とルーカスの悪口で盛り上がっていたら、「スピットファイヤー(戦闘機)のパイロットは、ルーカスの電装で恐ろしくなかったのだろうか?」と、ポツンと誰かが言ったことがあった。これは本当にもっともな話だと思う。でもルーカスは、第二次大戦当時は世界の最先端を突っ走っていた会社なのかも知れない。

エンジンからオイルが漏る話はよく聞くが、ハブからグリースが流れ出してブレーキがきかなくなったという話は聞いたことがないから、あのフエルトもしっかり仕事をしているのだろう。それにしても、浮谷東次郎の26Rにも滝信太郎のそれにもフエルトが使われていたのか思うと、何となく興醒めしてしまうのは僕だけだろうか?




 

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