第12話 激走会
某年某月某日
この手の車を持つ人達は、箱根に通うのが通例のようだ。今日は、アルピーヌのYA が企画した「激走会」というイベントに参加する。激走会とはその名のとおり、箱根へ行って激走しようというもので、集合場所の海老名サービスエリアには早朝から、竹槍こそを立てていないが、それぞれのご近所さんからは白い目で見られていそうな車が、10台ほど集まっている。
当時まだ持っている人が少なかったワープロで、きれいにレイアウトされた激走会の地図入りプログラムが配られたりすると、何とも遠足気分が盛り上がってしまう。もちろんこれは、YA の作品である。彼は、スロットレーシングの時代から、ボディーを実車のレースカーそのもののようにペイントした車をサーキットに持ち込んでは、周りをうならせることを至上の楽しみにしていたのだ。だから彼の赤いアルピーヌは白いゼッケンサークルが誇らし気に張られ、そしてお決まりの、その気にさせるステッカーチューンがなされている。
御殿場まで走ってファミリーレストランで朝食となったが、集まってきたオーナー達の話を聞いていると「初めて精神病院に入院した患者は誰でも、自分は正常だと感じる。」という話を思いだしてしまうほど、皆さん一線を越えてしまっているのには驚いた。そう、もちろん自分は、その線の手前で留まっていると思っているのであるが、、、
乙女峠を駆け上がり、芦ノ湖スカイラインで1 台ずつコーナリング写真を撮影する。湖畔でお茶を飲み、ターンパイクを滑り降りる。
日曜日の箱根でキャノンボールのような激走ができるわけがない。手に入れてからそんなに時間も経っていなので、色々な癖もまだ飲み込めておらず、終始遠慮がちのドライブだったが、どうもこのエランは、モッタリしていてシャープさに欠けるような気がする。その原因を作っているのが、必要以上に太いタイヤと、公害対策が施されているエンジンだろう。またそのエンジンの外見は、引き締まっていてパワーの出そうな本国使用のウェーバーヘッドと比べると、インテークとエキゾーストマニフォールドの間を、カムカバーをまたいで虹の掛け橋の様なパイプが2 本渡っており、ストロンバーグの甘食キャブレターとあいまって非常にみっともない。
帰り道、気持ち良くターンパイクを下っていると、突然エンジンフードが開いてしまった。これが今日の参加者唯一のトラブルだった。エランのエンジンフードは、前端部分をスプリングで下に引っ張っていて、後ろ側は、左右2 本の鉄板を曲げたツメで引っ掛けているだけの簡単な構造なので、そのツメが外れると、30 度ほどフードの後端が持ち上がってしまうのである。そうなるとドライバーは前方がまったく見えなくなってしまう。左ハンドルなのがラッキーだった。慌てずサイドウインドーから顔を出して路肩に車をとめ、事なきを得た。
ロータスにガムテープと針金は常備品と言われているが、この時も、ボディーと同色の白いガムテープで目立たないようにフードを張り付けて帰ってきた。
フードが開いた原因は、僕がまだ正しい閉め方を修得していなかったためで、休憩をした湖畔のレストランの駐車場でオイルをチェックしてフードを閉じる際、普通の車と同じように上から押さえ付けただけで済せてしまったのがいけなかった。
ラッチのツメを完全に引っ掛かけるためには、ラッチをリリースするノブを引きながらフードを完全に閉じた状態に押さえつけておいて、ノブを離さなければならないのだ。何かとお約束が多い車だ!
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