第11話 前オーナーってどんな人
某年某月某日
購入後の最初の休みは、中古車を買ったオーナーなら誰もがやる掃除の日である。
そして、車の中に落ちているコインやマッチ、伝票などをみつけては、前のオーナーがどんな人で、どんな生活をしていたか想像するのである。この車を買った例のドレスアップパーツ屋が言うには、「このエランは、アメリカに住んでいた日本人の前オーナーが新車で購入して彼の地で楽しんだ後、日本に戻る際に持って帰り車検を取って乗っていたもので、今回ベンツを購入するにあたり下取った。」そうだ。普通こういった話は、耳障りがいいようにデッチ上げられるものだから、信憑性がどんなものか分かったものじゃない。でも、シートの下から1 セントや25 セントコインが出てきたり、グラブボックスから指定オイルやタイヤ空気圧の基準値などの欄にイエローマーカーが塗られたオーナーズマニュアルが出てきたりすると、否応なしに前オーナーがどんな人だったのか知りたくなってしまうものだ。このエランは彼によって、ハーフシャフトが改善パーツに交換されていることを説明したが、その他には、オリジナルのブルーからアイボリーホワイトにリペイントされたこと、ルーカスのジェネレーターをデンソーのオルタネーターに交換してあること、リアホイールを0.5 インチ幅広い+2 用に換えて太目のタイヤを履いたこと、そのタイヤをクリヤーさせるためにリヤフェンダーのフレアーを若干大きくしてある点などが、改造された部分だ。それ以外は、新車当時からのパーツがそのまま使われている、オリジナルを保った車だ。ボディーにアンテナがついているから、以前ラジオが取付けられていたのだろうが、現在その場所には、ダッシュパネルと同じの木目の盲蓋がなされている。
僕が気に入らない点は、フロントに 175 、リヤに 185 のオーバーサイズのタイヤ( 70 年代前半のハイパーフォーマンスタイヤを代表するピレリ CN36) を履いていることと、リヤフェンダーのフレアーがノンオリジナルなことだ。このフレアーはかなりエランに詳しい人にしか気付かない程度の些細な違いだが、オーナー本人にとっては鼻のてっぺんにできたニキビのような大問題なのでる。因みに、初めてこの車を見付けた時に付いていた、極端に経が小さく、黄色と緑のロータスのロゴがホーンボタンになったステアリンホイールは、僕が引き取った時には、チャップマンのサインが入ったオリジナルに戻されていた。前オーナーは、想い出の染み込んだステアリングホールだけは手放せなかったのだろうか、、、、もしそうだとしたら、僕も同じことをするだろうから、このエランは、僕にとって理想的なオーナーが所有していたことになる。でも、どうしてベンツに乗り換えるために下取りに出さなくてはいけなくなったのか、その理由を知りたくなった。もうエランとの生活に疲れてしまったのだろうか?それとも、これから起こる数々のトラブルを予想できたのだろうか?
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