第8話 忠告は心して聞くべし
某年某月某日(購入2週間前)
夏休みを西伊豆で過ごした帰り道、例の白いエランが止まっていた所をまた通り掛かると、今度は歩道の内側のビルの軒下に駐車されているではないか。また慌てて車を止めて良く観察すると、そのビルの一階は、ドイツ車のドレスアップパーツ屋だった。前回は、あまりに車に集中していたので、全くそれに気が付かなかったのだ。これはひょっとすると売り物ではないかと思い、店の中に入りチョットどもりながら「そっそのエラン売り物ですか?」と聞いてみた。なんとその答えは「まあね!」「下取りで入って来たんで、欲しい人がいたら売ろうと思っている。」とのこと、目の前に欲しい人が突っ立っているのだからその答えは「Yes」が正しいだろう。これを聞いた瞬間から顔がカーっと熱くなり、ノドがカラカラにかわき、それから連続発作状態に陥り、翌日から金策に走り回ることになるのだった。
某年某月某日(購入1週間前)
数年前からアルピーヌを持っていて、古くて小さな車に詳しいアルピーヌのYAに頼んで、一緒にこのエランを見に行く。
古い車のチェックポイントを心得ている人に評価してもらえば、安心できるとの思い付きからだ。しかし、彼はこのエランを一目見て開口一番「これは外道だね!」とくるではないか。突然の意外な発言に僕はあっけに取られて「えっ、どうして?」と聞き返す。すると「これはアメリカ仕様だよ!ほら左ハンドルだし、キャブレターだってストロンバーグじゃないか!」そう言われてよくよく車を見ると、ボディーの四隅にサイドマーカーランプが付き、エンジンルームには、とにかく良い評判は聞いたことのないストロンバーグキャブレターが二つ並び、公害対策用と思われる2本のパイプが、インテークマニーホールドからエキゾーストマニーホールドまでカムカバーをまたいで渡っている。確かに写真で見たエランのエンジンルームより、なんだかゴチャゴチャしている。でもそんなエミッションコントロール関係のパーツは取ってしまって、キャブレターはウェーバーに取り替えればいいことだし、「そんなことは後でどうにでもなる。」と心の中で弁護を初めている自分に気付きながらも、「それで、車全体としてはどう?」と聞くと、「あえてコメントはしない。後で責任問題になったらいやだから。」と答えてくれない。今思うと、これは「辞めたほうがいいぞ!」と言う強いメッセージだったのかも知れない。しかし、もう既に僕の発作に飽き飽きしていたワイフは、僕の勢いに負けて購入をOKしてくれたし、今まで乗っていたシビックの買い手も見つかった、そして銀行ローンの手続きも済せてしまっていたので、YAのコメントは参考程度にとどめて、購入を決定してしまった。
きっとこのエランが「誰か良い人、買ってください!」と、オーラを出しながらに止まっていたのだろう。それに「エランが欲しい!」と思っている僕が引き寄せられるように通り掛かった。僕は、なによりこの偶然を大切にしたかったわけだが、第三者から見れば、エサをしかけた罠にかかった哀れな動物と、なにも違わないのかも知れない。
|