第6話
備えあっても憂いあり
某年某月某日(購入3カ月前)
購入の前提条件に上げてあるように、エランを手に入れた後、本当に自分で修理して走らせ続けられるものなのかを確かめるため、サービスマニュアルとパーツリストを手に入れることにした。これで勉強すれば、どこがどんな構造になっているのか、修理は大変か、どんな特殊工具が必要なのかなどを知ることができる。「ロータスのパーツ販売」と雑誌に広告が載っていたOトレーディングに電話をして、それらが入手可能か聞いてみた。すると、サービスマニュアルはないが、パーツリストのコピーを売ってくれると言うので、早速出かけてみた。
渋谷に近い住宅街の細い路地を入って行くと、ロータスのロゴのカンバンが立っている駐車場が現われた。その駐車場には、カバーがかけられた異様に車高が低い車が数台並でいる。駐車場を抜けて奥のドアを開けると、今度は棚にロータスツインカムやプッシュロドのフォードエンジン、トランスミッションなどがゴロゴロしている。なんとも不思議なところに迷い込んでしまった気分である。きっと事故車から切り取ったのだろう、エスプリのフロントノーズが無造作に立てかけられた壁の呼び鈴を鳴らすと、しばらくして玄関のドアが開き、電話で話したN氏が現われた。ここは、ショップというより個人の家なのだ。玄関から中の様子はよく分からないが、何種類ものガスケットが壁に打ったクギからぶら下がり、とにかくパーツが所狭しと納まっているようだ。僕がエランの購入を考えていて、故障しても素人の手に負えるかどうかたずねると、「大丈夫じゃないの。」と気のない返事である。いずれにせよ、哀れなロータスオーナーが増えることは、彼にとって有益なことは間違いないことだろう。(やはり、その後かなりの金額をこちらへ上納させていただいた。)
パーツリストは、それぞれのセクションがイラストで描かれた20ページ程度の「エっこれだけ?」と声に出したくなるようなしろもので、パーツナンバーなどは一切書かれていない。分厚くて細々とパーツナンバーが印刷されている、ホンダSやアルピーヌのパーツリストとは大違いだ。でも、このシンプルさが、キットフォームでも販売できた所以で、これなら僕にも何とかなりそうだと、ついつい自分に都合がいいように解釈してしまうのだった
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