第3話 インプリンティング (刷り込み)
某年某月某日
1966 年ぐらい前の日曜日の午後、白黒テレビの角の丸いブラウン管の中を、白い小さなスポーツカーが走っていた。アナウンサーと解説者は、「このロータスエラン(この場合、正しくはきっと26R )は、富士仕様のギアレシオのままなので、スピードがのらないようですね。」そんなことを話していたような気がする。
場所は、船橋サーキット。ドライバーは、滝進太郎だった。この番組は、1 台ずつサーキットを一周してタイムを競う、タイムトライアルのようなイベントを放送していた。なにしろ、番組全体の記憶はほとんどなく、その白いエランがブロック塀に沿った直線コースを轟音を響かせて疾走して行くと塀のむこう側からセスナが離陸する、そんな不思議な光景だけが、僕のまだ余白がいっぱい残っていた脳味噌に「消去不能」のロックがかかった状態で刷り込まれてしまったのだ。
因みに日本のレース史上でロータスエラン(これも26R )の活躍を語る時、浮谷東次朗の雨の船橋サーキットでの走りが代表的だが、僕はそれを白黒のグラビア写真でしか見ることしか出来なかった。テレビ世代の先駆けの僕にとって、文章に書かれたブッチギリの走りより、小さな画面を大きな音を立てて走っているエラン方が、卵からかえったヒナ鳥が最初に目にする動くもののように重要な存在だったわけだ。
そしてズーっと後の大人になってから浮谷東次朗の走りを動画で見ることができた。
排水の悪い船橋サーキットをアンダーステアをだしたり、ズルッとリヤタイヤをブレークさせることもなく理想的なラインをトレースする彼の走りは、伝説として語られている豪快な物ではなく、練習と計算に裏打ちされたプロストのような走りだったのには驚いた。
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